本書は、地方自治体における文化行政の専門家として知られる著者が、さまざまな困難にもかかわらず自治と地方分権を推進し、未曽有の大きな業績を挙げることがどうして可能だったのか、その秘密を自ら明らかにした貴重な書籍である。貴重であるだけでなく、誠に痛快な記録でもある。
注目すべきは、これらの多彩な活動を支えてきたのが、政治学者・松下圭一の自治と分権をめぐる政治理論・政策論の徹底した実践であったことだ。決して分かりやすいとは言えない松下理論を自らの骨肉とし、自治体政策の実践的構築に当たった著者の真摯な姿勢には脱帽せざるを得ない。
明治以来のエリートたちの立身出世の願望とは別のところで、決して恵まれた境遇にあったとは言えない一人の市民が、どれほど大きな社会変革を成し遂げることが可能か、著者は身をもって証明してくれている。その意味で著者は、われわれにとっての一つのモデルだ。
私は確信を持って言うことができる。新しい日本社会は市民がつくるもの、政治家やエリートがつくるものではない、ということを。(解説より抜粋)